「漫画の神様」と称される手塚治虫さん。
え、漫画の話?
って思われるかもしれませんが、彼ほど「生命とは何か?」「真実の愛とは?」「幸福とは?」というテーマを持ち続けて漫画を描き続けた人を、私は他に知りません。
「キリヒト讃歌」「どろろ」「ブラックジャック」「ジャングル大帝」・・数ある作品の中で、今日、取り上げたいのは「火の鳥」という作品です。
作品には、あくなき権力を求める男たち、不老不死を願う人達、永遠の愛を求める恋人達、母性の強い魅力的な女性達が登場し、何十世紀にもまたがりドラマが繰り広げられていきます。
そしてこの、はるかな空間と時間を舞台にした壮大な長編ドラマには、どのテーマにも「火の鳥」が登場し、人間のより良い生を見つめながら、
幸せを願い続けます
超大作 火の鳥
・永遠の命を持ち、その血を飲んだ生物も不死になれる
・一滴の血や羽にはケガや病気を治す効果がある
・テレパシーの能力と人間を超える能力を持っている
・時間と空間を超え、自由に移動できる
・相手の視覚にエネルギー波を当て、自分をどんな姿にも見せられる
火の鳥のルーツとなった「不死鳥」は世界中の様々な神話や伝説の中に登場し、普遍的なイメージとして存在しています。この「不死鳥」の伝説こそが、ドラマの案内人にふさわしいと手塚治虫さんは考えたのではないでしょうか。
では、時代別にこの作品をご紹介しますね。
<エジプト・ギリシャ・ローマ編>
三千年前、エジプトの王子が奴隷の少女ダイアと結婚し、二人で火の鳥の血を飲む。しかし王子は暗殺される。ダイアは王子は何百年か後に目覚めると火の鳥に知らされ自分も自決する。
ギリシャで蘇った二人は記憶を失い再会するが、ダイアが死ぬと今度は王子がダイアの後を追う。
三百年後、ローマ帝国で再び記憶を失って蘇る二人・・
<黎明(れいめい)編>
火の鳥を探して火の山に向かうイザ・ナギ。そこで火の鳥の卵を救い、妹と火の鳥の血を飲み新天地をつくり神として崇拝される。火の鳥を知った女王ヒミコは老いていく我が身を恐れ、火の鳥を欲する・・
神話の時代から大和朝廷の統一までを、火の鳥をめぐって展開される。
<ヤマト編 ヤマトタケル>
奈良県明日香村の石舞台古墳の由来を巡り物語が語られていく。
この物語の強烈な見どころは、墓の完成後、亡き王と共に生き埋めされた殉死者たちの最後にあります。火の鳥の血を染み込ませた布を舐めさせて貰った殉死者たちは一年もの間、埋められたまま、死なずに抗議の声や歌を歌い続ける・・
<太陽編>
テーマは新しい宗教と古い宗教がぶつかりあう悲劇。663年に倭国が朝鮮にて唐と新羅の連合軍に敗北すところから始まり、その後1300年を隔て宗教戦争が繰り返されていく。火の鳥は何度となく登場しその力を与えていく・・
<鳳凰編>
奈良の大仏建立の時代がモチーフになっている。誕生時、左腕と右目を失った不幸で闇を歩く我王と、光の中で生きる茜丸が苦悩しながら大仏開眼させるまでを描いた物語。
<羽衣編>
物語は平安時代、三保の松原に伝わる「羽衣伝説」をSFで描く
<乱世編>
平清盛と源義経の物語。平安時代を飾る平家と源氏の戦いを独自の視点で描く。死んだ清盛と義経は火の鳥と出会い、時代を遡って清盛は猿に生まれ変わり、義経は犬に生まれ変わる・・
<生命編>
「人間が他人の命をないがしろにしたために自分に報いがくる」がテーマ。クローン人間が登場する2155年を描いた「罪と罰」の物語。
<復活編>
人間とロボットの恋をテーマとし、「人間とは何なのか?」という究極な問題に迫っていく。
<宇宙編>
宇宙空間を描くSFミステリー。
流刑星で漂流する者たちの残酷な罪をあかしながら、火の鳥が裁いていく。
<望郷編>
旧約聖書を引用し、エデン人の滅亡までをSEタッチで描いた物語。
<未来編>
三十億年にわたる地球の歴史を描き切った圧巻のシリーズ。壮大な進化の歴史の中に人類の滅亡と誕生を描く。
と、まあザックリとしたご紹介しかできませんが、「火の鳥」は話ごとの主人公たちが「生と死」に直面しながら不老不死を願う姿が描かれています。しかし権力者たちが不老不死を願う醜い争いをする中で、火の鳥は時に美しい心を持つ人間たちにはその力を分け与えているのです。
手塚治虫氏の作品の根底には、「差別のない平和な世界」を望む
「大きな愛」が流れていると確信しています。